街のスマートフォン修理店で働いていると、毎日必ずといっていいほど「トイレに落とした」と憔悴した表情で駆け込んでくるお客様に出会います。私たちスタッフの本音を言えば、水没修理は最も神経を使う作業であり、同時に「もう少し早く、そして正しく対処してくれていれば」と悔しく思うことが多い分野でもあります。多くの人が誤解されていますが、修理店での水没対応は、単に乾かす作業ではありません。本体をバラバラに分解し、基板を洗浄し、腐食箇所を顕微鏡で見ながら手作業で除去していく、外科手術のような工程です。私たちが最も困るのは、お客様が良かれと思って行った「自己流の乾燥」の結果です。ドライヤーで熱せられた基板は歪み、米粒の粉塵が詰まった充電ポートは接触不良を起こし、振り回されたスマホの内部では水滴が基板全体に散らばっています。これらはすべて、復旧率を下げる要因となります。また、修理店に持ち込むまでの時間が長ければ長いほど、内部での酸化は進みます。理想を言えば、落としてから数時間以内、遅くともその日のうちに持ち込んでいただくのが、成功の境界線です。お客様の中には「防水スマホだから洗浄は不要だろう」とおっしゃる方もいますが、私たちの目から見れば、防水機能をすり抜けて侵入した不純物混入の水のほうが、一度入ると抜けにくいため、より質の悪いダメージを与えます。私たちは、データが復旧して画面が点灯した瞬間の、お客様の安堵した顔を見るために日々作業をしていますが、水没修理に「絶対」はありません。一度水に濡れた基板は、いつ再発するか分からない時限爆弾のような脆さを抱えることになります。だからこそ、修理が成功したお客様には必ず「今すぐバックアップを取って、早めに機種変更を検討してください」と伝えています。水没修理の本質は、スマホを元通りに直すことではなく、新しいデバイスへ移行するための「最後のチャンス」を作ることなのです。そのことを理解した上で、冷静に私たちプロを頼ってほしいというのが、現場に立つスタッフの切実な願いです。