マンションなど集合住宅で暮らしていると、年に一度ほど「排水管一斉高圧洗浄」のお知らせが届きます。これは、建物全体の配管を詰まりから守るための重要なメンテナンスですが、時として予期せぬトラブルを引き起こすことがあります。その代表例が、作業中に自宅の洗濯機の排水口からゴボゴボと音を立てて水が逆流し、床が水浸しになってしまう事故です。この場合、責任は一体誰にあり、そして自分の火災保険は果たして使えるのでしょうか。 この逆流事故の責任の所在は、非常に複雑です。基本的には、洗浄作業を実施した業者や、その作業を発注したマンションの管理組合に、損害賠償を求めることになるのが一般的です。しかし、業者が事前に「作業中は水を流さないように」「排水口に蓋をしておくように」といった注意喚起を十分に行っていたにもかかわらず、入居者がその指示に従わなかった場合は、入居者側の過失が問われる可能性も否定できません。 ここで大きな助けとなるのが、あなた自身が加入している火災保険です。たとえ原因が業者や管理組合にあったとしても、その後の賠償交渉には時間がかかる場合があります。そんな時、まずは自分の火災保険の「水濡れ補償」を使って、濡れてしまった床や家財の修理費用を立て替えてもらうことができるのです。そしてその後、あなたの保険会社が、あなたに代わって本来責任を負うべき業者や管理組合に対して、支払った保険金を請求する「求償」という手続きを行ってくれます。 この仕組みを利用する最大のメリットは、あなたが面倒で時間のかかる賠償交渉の矢面に立たなくても、迅速に被害の回復を図れる点にあります。事故が起きたら、まずは管理会社や管理組合に事故発生を報告すると同時に、ご自身の保険会社にも連絡を入れ、「排水管洗浄が原因で水漏れが起きたが、保険は使えるか」と相談してみてください。 予期せぬ形でもらい事故のように発生する、排水管洗浄による水漏れ。こうした複合的なトラブルに備えるためにも、自分の火災保険が持つ力を正しく理解しておくことが、マンションでの安心な暮らしを守るための重要な知識となるのです。