自分で蛇口を交換するDIYは、成功すれば大きな節約と達成感をもたらしてくれますが、その工程には一つ、絶対に失敗が許されない、極めて重要なステップが存在します。それは、作業を始める前に行う「止水栓を閉める」という操作です。この地味で目立たない作業こそが、蛇口交換の成否、ひいては家全体の安全を左右する、まさに心臓部と言っても過言ではありません。止水栓を制する者は、蛇口交換DIYの全てを制すると心得ましょう。 止水栓とは、家全体の水道の元栓とは別に、キッチンや洗面所、トイレといった各水回りの設備への給水を個別に止めたり、水の勢いを調整したりするためのバルブのことです。通常、キッチンのシンクや洗面台の下の棚の中に、お湯と水の二本の給水管の途中に設置されています。多くは、マイナスドライバーで回すタイプか、手でひねるハンドルタイプです。 蛇口交換を始める前に、この二つの止水栓を、時計回りに、固く、動かなくなるまで完全に閉め切る必要があります。この操作を忘れたり、中途半端だったりしたまま古い蛇口を取り外してしまうと、どうなるでしょうか。水道管内部にかかっている圧力によって、給水管から凄まじい勢いで水が噴き出し、あたり一面が瞬く間に水浸しになるという、まさに悪夢のような大惨事を引き起こします。床材が水を吸って膨れ上がり、最悪の場合、階下の部屋にまで水漏れ被害を及ぼしてしまえば、損害額は数十万円にもなりかねません。 止水栓を閉めた後は、本当に水が止まっているかを必ず確認してください。蛇口のレバーを上げて、水が出ないことを確かめます。この時、配管内に残っていた少量の水がチョロチョロと出てきますが、それが止まれば大丈夫です。もし、水が止まらない場合は、止水栓が完全に閉まっていないか、あるいは止水栓自体が故障している可能性があります。その場合は、潔くDIYを諦め、家の外にある水道の元栓を閉めた上で、プロの水道業者に連絡するのが最も賢明な判断です。 止水栓を確実に閉める。この基本中の基本を徹底することこそが、安全な蛇-口交換DIYへの唯一の道であり、あなたとあなたの家を、取り返しのつかない失敗から守るための、最も重要な生命線なのです。